大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和23年(行)193号の1 判決

原告 赤松茂 外二名

被告 国・大阪市東住吉区東部農業委員会

主文

原告等の被告国に対する訴を全部却下する。

原告等の被告大阪市東住吉区東部農業委員会に対する訴のうち、原告赤松茂が別紙第一物件表記載の土地について、原告赤松ミ子が別紙第二物件表記載の土地について、原告赤松照夫が別紙第三物件表記載の土地について、それぞれ各土地に対する政府の買収の取消を求める部分、政府の買収、公告、裁決、承認、買収令書の発行の各無効確認を求める部分、原告赤松茂が別紙第一物件表記載の(9)(16)(19)(20)の各土地について原告赤松ミ子が別紙第二物件表記載の(1)(6)の各土地についてそれぞれ買収計画の取消並びに買収計画、異議却下決定の各無効確認を求める部分をいずれも却下する。

原告等のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実

原告茂は別紙第一物件表記載の土地について、原告ミ子は別紙第二物件表記載の土地について、原告照夫は別紙第三物件表記載の土地について、それぞれ「大阪府中河内郡加美村農地委員会が定めた買収計画及びその買収計画に基く政府の買収を取り消す。被告等は、右政府の買収の無効であること並びに右の買収計画及びこれに関する公告、異議却下決定、裁決、承認、買収令書の発行の無効であることを確認せよ。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決を求め、請求の原因として次のとおり述べた。

「一、(一) 被告大阪市東住吉区東部農業委員会(以下被告委員会という。)の前身である大阪府中河内郡加美村農地委員会は原告茂所有の別紙第一物件表記載の土地及び原告ミ子所有の別紙第二物件表記載の土地につき、いずれも自作農創設特別措置法(以下自創法という。)第三条第一項第二号に該当する農地として、原告照夫所有の別紙第三物件表記載の土地につき同法第三条第一項第一号に該当する農地として、第一、第二物件表の土地については第五回、第三物件表の(1)ないし(6)の土地については第三回、同物件表の(7)ないし(10)の土地については第四回の各買収の際にそれぞれ農地買収計画を定め、その旨公告し、原告等の申し立てた異議をいずれも却下し、大阪府農地委員会(以下府農地委員会という。)は、原告等のした訴願をいずれも棄却する裁決をし右各買収計画を承認した。大阪府知事は右各買収計画に基く各買収令書をいずれもその発行日付より一年以上も遅れて発行した。

(二) ところで、大阪府知事は、右各買収計画に基く各買収令書を原告に交付せず、これに代る公告もしていない。買収令書の交付またはこれに代る公告のない買収処分は無効である。もつとも原告は、昭和二七年一月二五日の本件準備手続期日において大阪府知事から買収令書の交付を受けた旨自白したが、右自白は真実に反し錯誤によるものであるから取り消す。

二、本件各買収計画は、まず次の点で違法であるから取り消さるべきである。

(一)  加美村農地委員会は自作農創設事業の基本となるべき事業認定をしていないから、右の各買収計画はその基礎を欠く違法がある。

(二)  本件各土地はいづれも自創法第五条第五号によつて買収から除外するのが相当であるのに、これにつき買収計画を定めたのは違法である。

(三)  本件各土地の時価は一反歩三万円を下らず自創法第六条第三項但書の特別の事情がある場合にあたるのに、右各買収計画においては特別の事情があることを認めず、単に賃貸価格の四〇倍または四八倍をもつてその対価としたのは違法である。また本件土地の実測面積は公簿面積より一割以上広いことは公知の事実であるのにかかわらず買収計画書においては公簿面積を記載し、これによつて買収を定めたのは不当である。

(四)  (原告茂、同ミ子の主張)第五回買収計画については、加美村農地委員会は、保有小作地として、原告ミ子所有の土地については加美神明町三丁目三八番地四畝二歩を、原告茂所有の土地については次の五筆の土地合計三反八畝一〇歩をそれぞれ買収から除外した。

反 畝  歩

(イ)  加美柿花町四丁目三五番地   二、一三

(ロ)  加美神明町三丁目五五番地 一、二、二三

(ハ)  〃   〃   五六番地   五、〇九

(ニ)  〃    三丁目五八番地   六、〇〇

(ホ)  加美乾町    二五番地 一、一、二五

右のうち(イ)の土地は宅地であつて農地ではないから、原告茂については保有小作地として三反五畝二七歩を残したことになる。右の各原告について買収から除外した土地は、いずれも法定の保有小作地許容量である六反歩に満たず、本件買収計画は保有小作地を侵害するものであるから違法である。右原告両名は夫婦であつて同居しているが、加美村農地委員会が右原告両名の分を合算して小作地保有量を定めたのは憲法の精神に反し違法である。現行憲法下では家とか世帯とかいう観念はなく、各人は独立してそれぞれ自己の財産を保有しうるのであるから、保有小作地も各人別に六反宛認めなければならない。

三、次に本件各買収計画、その公告、異議却下決定、裁決、買収計画の承認、政府の買収及び買収令書の発行はいずれも次の点で違法であり無効といわなければならない。

(一)  買収計画 (1)本件各買収計画は加美村農地委員会作成名義の買収計画書なる文書をもつて表示されている。しかし被告委員会に備えてある加美村農地委員会議事録によれば右の買収計画の内容と一致する決議のあつたことが明認し難く、また右買収計画書には決議を要する買収計画事項の全部が完全には表明されていない。すなわち、右買収計画書は加美村農地委員会の決議に基き、かつ法定の内容を具備する適式の買収計画と認めるに足りない。(2)買収計画書は委員会という合議体の行政行為的意思を表示する文書であるから、買収計画書に、委員会の特定具体的決議に基いた旨の記載と、その決議に関与した各委員の署名あることをその有効要件とするが、本件各買収計画書には右の記載と署名がない。

(二)  公告市町村農地委員会はその決議をもつて買収計画の公告という行政処分をしなければならない。その公告は、買収計画という委員会の単独行為を相手方に告知する意思伝達の法律行為である。適法な公告があつてはじめて買収計画に対外的効力が生ずる。ところで本件各買収計画の公告は(1)加美村農地委員会の決議に基いていないし、(2)加美村農地委員会の公告ではなく、会長の単独行為であり、その専断に出たものである。(3)また公告の内容は買収計画の告知公表であることを要するのに、本件各公告は単にその縦覧期間とその場所を表示したにすぎず、自創法第六条に定める公告としての要件を欠いている。

(三)  異議却下決定 (1)原告等に送達された異議却下決定は、加美村農地委員会がこれと一致する決議をした証跡がない。また同委員会の議事録にこれを証明するに足る記載がない。(2)その決定書は会長単独の行為または決定の通知とは認められるが、同委員会の審判書と認むべき外形を備えていない。

(四)  裁決 (1)府農地委員会が原告等の訴願についての裁決の議決をした事実は認めるがその議決は裁決の主文についてのみ行われ、その主文を維持する理由に関しては審議を欠く裁決書中理由の部分は会長たる知事の作文であつて、同委員会の意思決定を証明する文章ではない。(2)裁決書たる知事の名義で作成されているが、会長が同委員会の訴願の審査及び裁決の決議に関与しなかつたことは公知の事実である。故に右の裁決書は同委員会の裁決に関する意思を表示する文書ではない。(3)裁判書を会長名義で作成することは法令上許されない。

(五)  承認 買収計画につき、市町村農地委員会は自創法第八条に従つて都道府県農地委員会にその承認を申請し、都道府県農地委員会は、その買収計画に関する法律上事実上の事務処理について違法または不当の点がないかを厳密に審査し、その承認を行うものである。すなわち買収計画の承認は、承認の申請に基き買収計画に関し検認許容を行う行政上の認許で、行政上の法律行為的意思表示であり、行政処分たる法律上の性格を有する。買収計画はその公告によつて対外的効力を有するが、さらにこれに対する適法有効な承認があつてはじめてその効力が完成し、ここに確定力を生じ政府の内外に対し執行力を生ずる。ところで(1)本件各買収計画に対しては適法な承認がない。府農地委員会は今次の農地改革における各買収計画に対し法定の承認決議をした外形があるが、あるいは市町村農地委員会の適法な申請に基かないものがあり、あるいは承認の決議が訴願に対する裁決の効力発生前になされたものであつて、概して承認の決議自体無効である。このことは本件各買収計画に対する承認についても同様である。(2)本件各買収計画に対して承認の決議はあつたが、この決議に一致する府農地委員会の承認書が同委員会によつて作成されていない。また加美村農地委員会に送達告知されていない。すなわち買収計画に対する違法な承認の現出告知を欠く。故に承認なる行政処分は存在しない。仮に右の決議をもつて承認があつたとしても、かかる決議は法定の承認たる効力がない。

(六)  政府の買収 自創法による農地宅地等の政府による買収は一種の公用徴収である。この政府の買収には広狭二義あり狭義においては買収を目的とする行政処分のみを意味し広義においてこの処分とその執行とを包含する。狭義における政府の買収に関しては、特定の行政庁において独立の文書でこれを表示することなく、広義における政府の買収に関しては、知事が買収令書なる文書を発行してこれを被買収者に交付し又は公告し、これによつて狭義の買収処分すなわち行政処分を執行し、広義の買収すなわち公用徴収を客観的に具現完遂する。そして狭義の買収は政府みずから行わずその買収権限を各農地委員会に委譲し、各委員会はその決議をもつて買収計画を確立してこれを公告し、異議訴願なる中間手続を経たのち認可または承認により各買収計画の確定をみる。すなわち狭義の政府の買収は政府みずからの行政処分に属せず、政府から買収権限の委譲を受けた各委員会の行政処分に外ならない。そしてこの処分は買収計画に対する認可または承認が適法に行われその効力を生じたことによつて成立する。しかし法律はこの場合政府の買収の成立したことを外部に公表する独立の文書を要求しない。すなわち政府の買収に関しては、政府みずからもまた各委員会も独立した政府買収書なる文書を作成することを要しない。故に政府の買収なるものは買収計画に対する認可または承認という外形的行為すなわち認可書または承認書が各委員会に送達せられたという法律事実の現出によつてその成立を確認すべきである。従つて政府の買収の有効無効は究極するところ買収計画及び買収手続の有効無効の判定である。買収計画ないし買収手続上の各行政処分のいずれかに瑕疵があり無効であれば、買収そのものも無効である。

(七)  買収令書の発行 政府の買収という行政処分は知事の買収令書の発行という行政処分により執行せられる。この買収令書が適法に交付または公告され、執行の効力が完全に生じた時に政府の買収という行政処分は完全に目的の達成をみる。すなわち広義の政府の買収は、買収令書の適法な発行とその被買収者に対する適法な告知により客観的に具現し終局を告げる。この買収令書は具体的に言えば、認可または承認によりその確定力を生じた買収計画の執行処分に外ならない。右のとおり買収令書の発行は政府の買収という行政処分の執行であり、買収計画について適法有効な認可または承認のあつたことを先決要件とする。故に(1)買収令書に表示された買収要項が買収計画の内容と一致しない場合、(2)買収令書の発行が適法な認可または承認が効力を生ずる以前になされた場合、(3)買収令書が買収計画に定めた買収時期以後に発行された場合(この場合は買収計画の執行に該当しない)、(4)買収令書に誤記違算がある結果買収計画と内容を異にする場合(この場合は買収令書自体がその要素において無効である)は、いずれもその買収令書の発行は無効である。

従つて、本件各土地についての政府の買取、買収計画、その公告、異議却下決定、訴願に対する裁決、買収計画の承認買収令書の発行はすべて無効である。」

次に被告等の出訴期間徒過の抗弁に対し、次のとおり述べた。

「買収及び買収手続上の各個の行政処分が公権私権を毀損する場合には、被害者にその処分に対する異議権(広義の取消権)が生じ、この異議権を行使するために訴権が与えられる。行政訴訟の訴訟物はこの異議権であつて、買収土地の所有権でもなければ行政処分そのものでもない。そして出訴期間の起算点は訴権の行使が可能となつた時である。訴権は右の異議権成立後その権利が保護の必要を生じた時から活動する。この時が訴権行使の始期であり、従つて出訴期間の起算点とすべきである。買収計画は承認によつて完成し執行力を生ずる。故に買収計画に対する異議権は承認の時に発生する。買収計画に対する不服の訴の出訴期間は、承認という行政処分が適法に成立したうえ、異議権利者がこれを知つた時をもつてその起算点とすべきである。また政府の買収という行政処分は、買収令書の発行という外形事実によつてその客観性を具現する。買収令書発行の形式のもとにその表示を見、ここに成立するものであるから、政府の買収に対する不服の訴は、買収令書の発行を知つた時すなわち買収令書の交付または公告の日から起算すべきである。本訴が出訴期間内に提起した適法な訴であることは右によつて明らかである。なお被告等主張の第三回及び第四回買収の各裁決書発送の日は争う。右各裁決書はいずれも昭和二二年一二月二三日に受領した。また第五回買収の裁決書は昭和二三年三月七日に到達した。」

また被告等の主張に対し

「第一物件表の(16)の土地については、買収令書を取り消す旨の通知が来たことは認めるが、買収計画及び買収処分を取り消したとの事実は争う。」

と述べた。

被告等は、本案前の答弁として本訴のうち買収計画の取消を求める部分及び買収計画の公告、承認の各無効確認を求める部分につき、「原告等の訴を却下する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求め、「第三回買収の裁判書は昭和二二年一二月二二日に、第四回買収の裁決書は昭和二三年三月六日に、第五回買収の裁決書は同年七月二八日にそれぞれ各原告に宛てて発送され、その頃各原告に到達しているから、同年一〇月一四日に提起された本件各買収計画の取消を求める訴は右各裁決書送達の時から起算していずれも出訴期間を徒過した後である。また買収計画の公告及び承認はいずれも行政訴訟の対象となりうる行政処分ではない。従つて本訴のうち右の各訴はいずれも不適法である。」と述べ、本案につき、「原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求め、次のとおり述べた。

「一、(一) 原告等主張の一、(一)の事実は認める。同一、(二)の買収令書交付に関する自白の取消には同意しない。原告等が前にした買収令書の交付を受けた旨の自白を援用する。

(二) 本件各買収手続の経過は次のとおりである。

(イ)  第一、第二物件の土地 (買収の時期 昭和二三年二月二日―第五回買収)

昭和二二年一二月十九日 加美村農地委員会 買収計画決定

同   年同 月二〇日 同        公告

右同日から一〇日間   同        縦覧

昭和二三年一 月一五日 原告茂、同ミ子  異議申立

同   年同 月二一日 加美村農地委員会 右異議申立却下の決定

同   年二 月一〇日 原告茂、同ミ子  訴願

同   年同 月二九日 府農地委員会   右訴願棄却の裁決

なお、右買収計画に対する府農地委員会の承認は、昭和二三年二月一日に訴願に対する裁決が棄却となることを条件としてなされた

(ロ)  第三物件表(1)ないし(6)の土地(買収の時期 昭和二二月一〇月二日―第三回買収)

昭和二二年七月二九日  加美村農地委員会 買収計画決定

同   年同月三〇日  同        公告

右同日から一〇日間   同        縦覧

右縦覧期間内に     原告照夫     異議申立

同   年八月二一日  加美村農地委員会 右異議申立却下の決定

同   年九月一日   原告照夫     訴願

同   年同月一九日  府農地委員会   右訴願棄却の裁決

(ハ)  第三物件の(7)ないし(10)の土地(買収の時期 昭和二二年一二月二日―第四回買収)

昭和二二年九月二二日  加美村農地委員会 買収計画決定

右   同    日  同        公告

右同日から一〇日間   同        縦覧

右   同    日  原告照夫     異議申立

同   年一〇月八日  加美村農地委員会 右異議申立却下の決定

同   年同月二〇日  原告照夫     訴願

同   年一一月二八日 府農地委員会   右訴願棄却の裁決

(三) 右の(イ)の買収計画のうち、第一物件表の(16)の土地については、昭和二七年二月五日一部買収を理由に買収計画を取り消し、それに基く買収処分も取り消した。また第二物件表の(1)の土地も、当初買収計画が立てられたが、その後買収計画を取り消した。

二、原告等の二の主張事実について、

(一)  自創法においては、同法所定の買収要件を具備する農地であれば、すべて買収するのであつて、この買収に先立ち都道府県知事または市町村農地委員会が、原告等主張のごとき自作農創設事業の基本となるべき事業認定をする必要はない。

(二)  本件土地は自創法第五条第五号に該当する土地ではない。

(三)  買収の対価については、自創法第一四条が別にその不服の訴を認めており、対価の違法は買収計画の効力に影響がない。また本件各買収計画書において、その対象たる農地の面積につき公簿上の面積によつたことは争わないが、面積を表示するのは、当該農地の所在、地番及び地目の表示と相まつてその農地を特定するためである。公簿上の面積と実測面積が異なる場合に、買収計画において公簿上の面積を表示しても、その買収計画の効果は当然実測面積に及ぶ。従つて公簿上の面積によつて本件買収計画にはなんら瑕疵はない。もつとも、この場合買収計画において定めた対価が公簿上の面積を基準として算出されているときは対価増額の訴の理由となしうるとしても、前同様買収計画の効力には影響がない。

(四)  原告茂、同ミ子は夫婦であるから、自創法第四条により右原告両名の所有小作地のうち合計六反歩を保有小作地として買収から除外すればよいのであつて、加美村農地委員会は、左の小作地を保有地として買収から除外している。

反 畝  歩

(イ)  加美長沢町八丁目 一四八 田 一、〇、一〇  原告茂所有

(ロ)  加美柿花町三丁目   三 〃 一、三、一六  〃

(ハ)  〃    四丁目  三五 〃   二、一三  〃

(ニ)  加美米次町四丁目  一九 〃 一、〇、一一  〃

(ホ)  加美大芝町六丁目  三〇 〃 一、〇、〇〇  〃

(ヘ)  加美乾町      二五 〃 一、一、二五  〃

(ト)  加美神明町三丁目  五五 〃 一、二、二三  〃

(チ)  〃   〃     五六 〃   五、〇九  〃

(リ)  〃   〃     五八 〃   六、〇〇  〃

(ヌ)  〃   〃     三七 〃   七、〇六  原告ミ子所有

(ル)  〃   〃     三八 畑   四、〇二  〃

合計  九、三、二五

よつて原告等の二の主張はいずれも理由がない。

三、原告等の三の主張事実について

(一)  買収計画 加美村農地委員会は本件各買収計画を定めるについて自創法第六条第二項に定める事項を含む同条第五項所定の縦覧書類(買収計画書)に記載の各事項につき決議している。またその際作成された議事録が仮に不完全なものであつたとしても、議事録は一の証拠方法であつて、これのみによつて決議の内容を証明しなければならないものではないから、議決の効力には影響がない。次に買収計画書に記載すべき事項は同法第六条第五項に定めるとおりであつて、それ以外に決議に関与した委員の署名など必要としない。本件各買収計画ないし買収計画書にはなんらの瑕疵はない。

(二)  公告 本件各買収計画の公告をするについて加美村農地委員会の決議を経ていないこと及び右の公告を同委員長名義をもつてしたことは争わない。しかし、市町村農地委員会が買収計画を定める議決をしたときは必ず公告すべきもの(自創法第六条第五項)であつて、公告をすることについてあらためて決議を要しない。そして、右の公告は市町村農地委員会の代表者たる会長がなすべきものであり、その公告の内容は、単に買収計画を定めた旨を表示すれば足り買収計画の内容を表示する必要はない。本件各公告に違法な点はない。

(三)  異議却下決定 加美村農地委員会は、原告等の異議申立について委員会を開き、審議の結果異議はその理由がないので却下した。なおその決議の内容を議事録によつてのみ証明しなければならないものではないことは、さきに買収計画の場合について述べたのと同じである。却下決定書は加美村農地委員会の代表者たる会長名義で作成されているが決定書は同委員会の決定の表示行為であるから、これを会長名義でするのは当然で、会長名義でなされた右行為は同委員会の行為として効力を有する。異議却下決定についてなんら瑕疵はない。

(四)  裁決 府農地委員会が訴願に対し裁決するには、事案によつて、直ちに審議し、あるいは小委員会に調査させた上委員会でその報告を聞いて審議し、その審議の結果訴願に対する決論を出して裁決するのであつて、裁決するのであつて、裁決書に記載される「理由」は委員会の審議の結果の判断の表示であるから、裁決の理由について当然審議している。裁決書を府農地委員会長たる知事名義で作成するのは、委員会の代表機関としての資格に基くものであつて、会議の議長としての資格に基くものではないから知事が委員会に出席していなくてもその名義で裁決書を作成することは違法でない。裁決書を会長名で作成するのは農地調整法第一五条の一〇同法施行令第三一条第一六条に基いている。

(五)  承認 (1)承認には申請を要しない。承認は行政庁内部における自省作用であり、自発的になしうるものであるからその性質上、申請の有無にかかわらず承認しうる。自創法にも承認を受ける手続についてなんら規定を設けていない。(2)承認は、承認書の作成を要せず、市町村農地委員会に通知する必要もない。承認は議決のみによつてその効力を生ずる。もつとも行政実例では、府農地委員会は承認の決議をしたのち、会長名義の承認書を作成して市町村農地委員会に送付している。本件にあつても同様であるが、これは単に加美村農地委員会に対し、その定めた買収計画に基いて買収令書が発行されるか否かを知らせるため行政庁内部においてとられた事務連絡のための措置にすぎず、法令の要求する手続ではない。(3)訴願に対する裁決が訴願人に対して効力を生ずるのは裁決書の謄本を訴願人に送付した時であるが、自創法第八条の趣旨は、承認の前提としては裁決の議決のあつたことをもつて足り、その裁決さえあれば直ちに承認できることを定めたものである。もつとも本件各買収計画に対する承認のうち、第一、第二物件表の土地に対する買収計画の承認は、訴願に対する裁決の議決が行われる前になされたことは、さきに述べたとおりであるが、これは買収処分取消の原因とはなり得ても無効原因ではない。第三物件表の土地の各買収計画に対する承認は裁決の議決の後に行われている。

(六)  買収令書の発行 (1)本件各買収令書には自創法に定める所要事項を記載してあり、かつ、その内容に瑕疵はない。(2)承認は、その議決のみによつて効力を生ずることは(五)に述べたとおりであつて、右各買収令書は、府農地委員会が承認の決議をしたのち交付した。仮に承認は、市町村農地委員会に対する通知によつてその効力を生ずるとしても、右買収令書は、府農地委員会において加美村農地委員会に対し承認書を送付し承認のあつた旨を通知したのち交付したものである。(3)買収令書を買収の時期以後に交付しても買収の効力に消長をきたすものではない。本件各買収令書の交付に関し原告主張のごとき無効事由はない。」

(証拠省略)

理由

一、(一) 被告国に対し買収計画の取消を求める部分は、国は買収計画を定めた行政庁ではないから、国に被告たる適格がない。

(行政事件訴訟特例法第三条)

(二) 被告国に対し、買収計画、異議却下決定、訴願に対する裁決及び買収令書の発行(買収処分)の各無効確認を求める部分は、国に被告たる適格がない。

そもそも行政処分の無効確認訴訟と行政庁の違法な処分の取消または変更を求めるいわゆる抗告訴訟との差異は、当該行政処分が重大かつ明白な瑕疵を有する場合は、その行政処分は当初からその目的とする法律効果を発生しないのであつてなんらの効力をも生ずる余地がなく、その処分に利害関係を有する者は何びとでもいつでもその無効を主張できるのに対し、単に取消原因にすぎない瑕疵を有する行政処分は、抗告訴訟によるなど権限のある機関により適法に取り消されるまでは一応その効力を保有し、いわゆる公定力ないし適法性のの推定を受け、これによつてその行政処分に安定性を与えようとするのであるという点の差異に由来するものであると解するのが相当であり、それ以外に右の二つの訴訟型態の間に本質的な差異を設ける理論的根拠を見出せない。従つて、無効確認訴訟において、抗告訴訟に関する行政事件訴訟特例法の規定のどれが準用されどれが準用されないかということも右の観点から観察しなければならない。これを無効確認訴訟の被告についてみると、同法第三条の規定の意図するところから考えて、抗告訴訟の場合とその取り扱いを異にしなければならない必要は右の観点からこれを引き出すことはできず、むしろ同条を無効確認訴訟の場合にそのまま準用し、抗告訴訟の場合と同一に取り扱うのが相当であると解する。従つて原告の右の各訴については、それぞれその処分をした行政庁のみが被告適格を有し、国はその適格を有しないというべきである。

(三) 被告委員会に対し訴願に対する裁決及び買収令書の発行(買収処分)の各無効確認を求める部分は、同委員会の前身である加美村農地委員会は右各行政処分をした行政庁ではないから、前述の理により被告委員会に被告たる適格がない。

(四) 被告等に対し買収計画の公告及び承認の各無効確認を求める部分は、行政訴訟の対象とならないものを訴訟物とする訴であるから、不適法である。すなわち買収計画の公告は買収計画を定めた旨を告知する手続にすぎず、独立の行政処分ではないから、また都道府県農地委員会が市町村農地委員会の買収計画を承認する行為は行政庁相互間の対内的行為であつて、行政庁の国民に対する対外的行為ではないから、いずれも行政訴訟の対象となる処分ではない。

(五) 被告等に対し「政府の買収」の取消及び無効確認を求める部分は訴の利益がない。原告等は自創法による農地買収手続のうち買収計画の樹立から承認に至る一連の手続を「狭義の政府買収」、さらに買収処分(買収令書の発行)が行なわれるとこれを「広義の政府買収」と称し、この両者を含めて「政府買収」というのであるが、右の一連の個々の手続を離れてことさらに右のように包括的に「政府の買収」という観念を取り入れ、これを出訴の対象とする必要も利益もないといわなければならない。なぜならば、右の一連の各段階の手続に対しては、それが被買収者に直接向けられ、その法律上の地位に直接の影響を及ぼす限りにおいてて、直接その効力を争つて出訴することが認められているからである。

(六) 被告委員会に対し、原告茂が第一物件表の(9)(10)(19)(20)原告ミ子が第二物件表の(1)(6)の各土地についてそれぞれ買収計画の取消及びその無効確認を求める部分は不適法である。すなわち、成立に争いのない乙第一号証の二、四、三二、三四、及び証人永田清之助の証言(第二回)によれば、右の第一物件表の(9)(19)(20)第二物件表の(6)の各土地については、原告茂、同ミ子の異議申立を審議する加美村農地委員会会議で保有小作地として買収計画から除外されたこと、第二物件表の(1)の土地については昭和二三年一月二四日にさきに保有地と定められた加美長沢町八丁目一四八番地田一反一〇歩の代りの保有地として買収計画が取り消されたことを認めることができ、また成立に争いのない乙第一号証の三五、三六、及び前記証人の証言によれば、第一物件表の(16)の土地については昭和二七年二月に一部買収を理由としてその買収処分及び買収計画が取り消されたことを認めることができる。従つて右六筆の各土地については買収計画が存在しないから行政処分の効力を争うべき訴の対象を欠く。

(七) 原告茂が前項の第一物件表中四筆の土地について、原告ミ子が前項の第二物件表中二筆の土地についてそれぞれ被告委員会に対し異議却下決定の無効確認を求める部分は不適法である。すなわち、右土地のうち第一物件表の(16)及び第二物件表の(1)の土地を除く四筆の土地については、前記乙第一号証の四によれば、異議却下決定は存在しないと認められる。成立に争いのない乙第一号証の三、五、によれば、右の各土地についても異議を却下したかのように見えるが、右乙第一号証の五のような主文を表示したのは、その理由の記載から推認できるように、右原告等が保有小作地侵害を異議の理由としなかつたからと考えられ、乙第一号証の四と対照するときは、右四筆の土地については加美村農地委員会は異議却下決定をしていないといわざるをえない。また第一物件表の(16)及び第二物件表の(1)の土地については、異議却下決定の後さきに確定したように買収計画が取り消されたのであるが、異議申立に対する決定のように、買収手続における副次的な、買収計画そのものに附随した行政的救済の手続の場合には、その形式上の存在が原告等に事実上の不利益をもたらすおそれもないから、訴によつてその外形的存在を除去する必要がないというべきであつて、買収計画が存在しなくなつた場合にはそれに関する異議却下決定の無効確認を求める利益はないといわなければならない。

(八) 被告等の、本件各買収計画の取消を求める訴は出訴期間経過後の訴であるとの主張について。

思うに、行政処分の取消訴訟について出訴期間の定めがあるのは、行政処分に基いて成立する法律関係をいつまでも不安定な状態におくことを避けるため、行政処分の効力を早期に確定させる必要があるからであつて、一般に行政処分は単独で一の法律的効果の発生が完了するから、当該処分について定められた出訴期間が経過すれば、これに基いて成立する法律関係は安定する。ところが行政処分にはこのほかに、連続する二以上の行政処分(もしくは行政権の発動としての確認、公証、通知、受理等処分に準ずるものを含む)が結合して初めて一の法律的効果が完了するものがある。すなわち、単一の法律的効果を目的とする包括的な同一手続中において行政処分が形式的には二以上の行為に分離して行われ、それが段階的に積み重ねられる場合である(例えば租税滞納処分としての、差押処分と公売処分、土地収用手続としての、建設大臣事業の認定、土地細目の公告及び通知、協議、収用裁決の申請以下収用委員会の収用裁決まで)。この場合には最終の処分がなされない限り、一連の行政処分の目的とする法律的効果は発生しないし、また最終の処分がなされても、それが取消訴訟をもつて争い得るものである限りにおいては、先行の処分自体について出訴の途が定められていようがいまいがまたこれに対する出訴がその処分を基準としてみれば法定の期間を経過しもしくは訴願を経由しなかつたものであるにせよ、依然として一連の処分に基いて成立する法律関係が不安定不確実な状態に置かれているのである。単に先行の処分に対して訴願を怠りまたは訴訟を提起せずその処分を基準としてみれば法定の期間を経過したとしても、それがために先行の処分は確定力を生じもはや争うべからざるものとなるのではなく、いわんや最終の処分に不可争性を付与するものとすることのできないのは論をまたない(最高裁判所昭和二五年九月一五日第二小法廷判決参照)。法律が先行の処分について出訴の途を開いているのは、先行の処分を一般の単一で一の法律的効果を生ずる独立の処分と全然同様に扱つて、これに対して一定の期間内に争訟を提起し得べきものと定めているのではなく、あくまで包括的な同一手続中の行為ではあるが、処分の相手方の利益(早期出訴及び選択的出訴の可能、管轄の利益)、をはかり、権利救済の十全(出訴機会の重複、重畳的出訴の可能)を期したにほかならない。そうだとすると、先行の処分について出訴の途が認められている場合におけるその出訴期間の終期は最終の処分の出訴期間の終期と一致すべく取り扱うことは、少しも出訴期間が定められた趣旨に反する理はなく、そう取り扱つて格別不合理が生ずるとも考えられない。次に先行の処分についてのみ訴願の定めがある場合に訴願を経由しないでした先行処分に対する出訴は不適法であろうか。単一の処分で法律的効果が完了する一般の行政処分の場合における訴願の不経由は原則として訴を不適法ならしめるのはもちろんであるが、包括的な同一手続中の相結合して一の法律的効果が完了する段階的処分においては先行の処分に対する訴願の不経由はこれに不可争性を付与するものと解すべきでないことはすでに述べたところで明らかであろう。そもそも訴願制度は決して権利救済の途をせばめるためにあるのではない。訴願前置制度は一応行政権に反省の機会を与え、その自主的な処理に期待することが行政権の地位を尊重するゆえんであり、一方裁判所の負担軽減をもたらす利点に着目したものである。二以上の行政処分が相結合して単一の法律的効果を生ずる場合においては行政権は処分をする都度反省の機会を与えられているのである(最終の処分を行つて法律的効果の完了の挙に出たことは行政権としては先行の処分に対する取消の訴を最終の処分の取消訴訟に変更することは許されるし、かつ可能である(最高裁判所昭和三一年六月五日第三小法廷判決参照)ことに想到すれば、この場合は訴願前置制度の前半の目的はおのずから達せられているものというべく一方の裁判所の負担軽減は考慮の要がないわけである。従つてこの場合訴願の不経由は訴を不適法ならしめるものではないと解するのが相当であるる。さて包括的な同一手続中の最後の処分のほかに、先行の処分についてそれぞれ出訴や訴願の途が定められている場合にその不遵守によつて不可争性は生じないと解すべきであるがそうかといつてなんらの効果も生じないとすることもちゆうちよされる。不可争性は生じないが、このことと抵触しない範囲において不遵守にはなんらかの効果が伴つていると探求されないであろうか。問題の解決は容易ではないが、手懸りとして着目さるべきものは、行政処分の違法は処分の手続的形式的要件に関するものと、処分の実質的内容的要件に関するものとに大別できることであり、前者は個別的であるに対し、後者は共通的であることである。一連の処分が結合して一の法律的効果を完了する場合には処分の実質的要件は各処分に備つていなければならないから、実質的要件は各処分に共通一貫し別異のものではあり得ないのに反し、処分の手続的要件は各処分毎に別個であり、独立性を有する。分離して行われる以上あたかも独立した単一の処分と異ならない(異なるのは効果の発生が他の処分との結合にかかつていることである)のであるから、当該処分の手続的違法を攻撃することは、当該処分を独立して出訴の対象とすることを法が認めている場合には、独立の処分と同様にみて、その出訴が適法である場合においてのみ許さるべきものと解する。独立して出訴の途が定められていない場合には、先行の処分の取消原因としての違法のかしは全的に最終の処分に承継されると考えるほかはないが、先行の処分が独立して出訴の対象とされる限り、その処分を基準としての出訴期間の徒過や訴願の不経由の事由があるときは、その効果として先行の処分の手続的違法のかし(無効の場合を除く)はその機会にあたかも治癒(そのかしを取消原因として主張しえないことになる意味においてであつて、そのかしがなかつたことになるわけではない)されたものと認むべきであり、その手続的違法のかしは最終の処分に承継されると考える必要がないからである。以上要するに先行の処分自体の出訴期間は最終の処分を基準として判断すべく、先行の処分を基準としての出訴期間の徒過もしくはこれに対する訴願の不経由は訴自体を不適法ならしめることはないから、処分の取消を求めることは許されるが、違法の事由は限定される。すなわち、処分の実質的違法を攻撃して取消を求めることは常に許されるが、当該処分に固有の処分の手続的違法を主張することは、このような懈怠のない場合に限られるべく、懈怠があれば処分の手続的違法を主張して処分の取消を求めることは許されないものと解する。農地買収計画と買収処分の関係には以上の理が妥当する。

農地買収は市町村農地委員会、都道府県農地委員会及び都道府県知事というそれぞれ別個の行政庁による別個の行政行為を段階的に積み重ねることによつて最終の目的を達成するものであり、買収計画は買収処分の前提としてなされる行為にすぎず、それ自体としては買収の効果を発生しない。そうして、自創法は買収すべき農地についての要件を定めており、その要件を欠く農地に対する買収計画もしくは買収処分に対しては、その違法(取消原因たる瑕疵に基く違法)を主張してそれぞれその取消を訴求することができる。すなわち、右の要件を欠く違法(実体的違法)の存否は、段階的になされる農地買収のための買収計画及び買収処分に共通のものである。従つて、買収計画の取消の訴は異議訴願を経なければ出訴できず、またこれを経た時にも訴願の裁決のあつたことを知つた日から一ケ月または訴願の裁決の日から二ケ月以内に提起しなければならないものとして実体的違法を包蔵する買収計画そのものを買収処分より先に確定させる実益は何もないから買収計画に対する出訴期間と買収処分に対する出訴期間とはその終期を一致させるのが妥当であると解する。出訴期間について前記のような解釈を妥当とする根拠は、実体的違法が買収計画にも買収処分にも共通であることにある。一方買収計画は、買収処分の前段階的な行為であるとはいえ、出訴の対象となる独立性を有する一積の行政処分である。その手続においては知事の行う買収処分の手続と共通する点はない。従つて前述のとおり手続上の違法については訴訟前置及び出訴期間の制度の趣旨に照し、異議訴願をしなかつた場合及び訴願の裁決のあつたことを知つた日から一ケ月または訴願の裁決の日から二ケ月を経過した場合には、もはやその違法を主張できないものと解すべきである。

本訴においては、本件各買収令書がその記載してある発行日付より一年以上遅れて発行されたことは当事者間に争いがない。そうして、買収令書の交付の具体的年月日を認めることのできる証拠はないが、特に反対の証拠がない限りその発行日及び交付日は各買収計画に対する承認の日より後であると推定すべきでありり、成立に争いのない乙第一号証の二〇ないし二二、乙第六号証の四、六、七、によれば、本件各買収計画に対する承認はそれぞれ昭和二二年九月二八日、同年一二月一日、昭和二三年二月一日になされたことが認められるから、同年一〇月一四日に提起されたこと記録上明らかな本件各買収計画の取消を求める訴は、出訴期間内の適法な訴といわなければならない。

二、そこでまず、本訴のうち、被告委員会に対しさきに一、(六)で述べた六筆の土地を除く本件各土地に対する各買収計画の取消を求める部分について判断する。

(一)  右の土地について原告等主張のとおり各買収計画が定められたことは当事者間に争いがない。

(二)  原告等の二の主張について。

(1)  自創法による農地買収計画を定めるにあたつて原告等主張のごとき事業認定をすることは同法の要求するところではない。

(2)  検証の結果に弁論の全趣旨を総合すれば本件各土地はいずれも買収計画を立てた当時自創法第五条第五号に「近く土地使用の目的を変更することを相当とする農地」であると判断できる状態にはなかつたものと認めるのが相当であるから、本件買収計画には自創法第五条第五号の指定をしないでした違法はない。

(3)  農地買収における対価の点は、別に自創法第一四条の訴が認められている趣旨から考え、対価の違法はは、買収計画の効力には関係がないと解するのが相当である。また、本件各買収計画書には公簿上の面積が記載されていることは当事者間に争いがない。しかし、買収計画書や買収令書に農地の面積を記載するのは、その所在、地番、地目の表示と相まつて買収農地を特定するためであつて、これによつて面積を確定するわけではない。仮に買収計画書に記載された公簿上の面積が、実測面積より狭いとしても、それは自創法第一四条による対価増額を求める根拠となり得る場合があるにすぎないのであつて、これによつて買収計画の効力に影響するところはないと解するのが相当である。

(4)  原告茂、同ミ子は、保有小作地許容量を算定するに当り右原告両名の保有分を合算して六反歩を限度とするのは違法であると主張するが、右の算定方法は自創法第四条の明定するところであり、その趣旨は、もともと在村地主に小作地を保有させるのは立法の妥協にすぎず、自創法の理想としてできるだけ多く農地を解放して自作農を育成すること及び親族間で農地の所有権を分散して脱法的行為をするのを防ぐことにあると解することができ、これはまた各人がそれぞれ自己の財産を所有することを否定するものではないから、憲法に違反するものでもない。

右原告両名が夫婦であつて同居していることは同原告等の認めるところであり、同原告等が二、(四)で主張する原告ミ子所有の加美神明町三丁目三八番地の土地及び原告茂所有の(ロ)ないし(ホ)の土地が保有小作地として残されていることは当事者間に争いがなく、さきに理由の一、(六)で述べたとおり第一物件表の(9)(19)(20)第二物件表の(1)(6)の五筆の土地が保有小作地として残されていることを認めることができるから、農地であるかどうかにつき当事者間に争いのある加美柿花町四丁目三五番地の土地を除いても原告茂、同ミ子の保有小作地の合計は優に六反歩をこえており、本件各買収計画はなんら保有小作地許容量を侵害するものではない。従つて原告の二の主張はいずれも採用できない。

(三)  原告等の三、(一)(二)の主張について。

成立に争いのない乙第一号証の二三、二四の一、二、二五及び証人永田清之助の証言(第二回)によれば、本件第三回買収に関する訴願裁決書は昭和二二年一二月二二日、第四回買収に関するそれは昭和二三年三月六日にそれぞれ原告照夫宛発送されていることが認められ、同原告の主張する第三回買収に関する裁決書を同原告が受領した日(昭和二二年一二月二三日)も右に符合するから、第四回買収に関する裁決書も右発送の日の翌日頃に同原告に到達しているものと認めることができる。(同原告の主張する第四回買収の裁決書受領の日は誤解に基くものと考えられる。)昭和二三年一〇月一四日に提起された本訴は右各裁決書受領の日から二ケ月を経過した後の訴である。また成立に争いのない乙第一号証の三、一五、二六によれば、第五回買収に関して原告茂、同ミ子のした異議申立及び訴願はいずれも法定期間を経過した後になされたものであることが認められるから、結局第五回買収に関しては適法な異議申立及び訴願がなかつたことに帰する。従つて前記理由一、(八)の項で述べたとおり、原告等は本訴で買収計画に固有の手続上の瑕疵を主張してその取消を求めることはできない。その買収計画原告等の三、(一)(二)の主張に対しては買収計画取消原因として判断する必要がない。

三、次に本訴のうち、被告委員会に対し前記六筆の土地を除く本件土地に対する各買収計画の無効確認を求める部分について判断する。

(一)  原告等の二の主張については、理由の二、(二)で判断したとおり取消原因としても理由がないのであるからら、もとより無効原因とはなりえない。

(二)  原告等の三、(一)(二)の主張について。

(1)  買収計画前記乙第一号証の二及び成立に争いのない乙第一号証の一、六、七、一〇、一一、二六、二七三三によると加美村農地委員会は自創法第六条の定めるところに従いその決議を経て適法に本件各買収計画を定め、同条第五項所定の書類(買収計画書)を作成してこれを縦覧に供したことが認められる。買収計画書に委員会が買収計画を定めるについて行つたその他の判断事項や、加美村農地委員会の具体的決議に基いた旨の記載とか各委員の署名など必要としないものと解する。原告の三、(一)の各主張は採用できない。

(2)  公告 市町村農地委員会は、買収計画を定めたときは、遅滞なくその旨を公告しなければならない(自創法第六条第五項)のであるから、特に右の公告をなすについて委員会の決議を経る必要はない。公告の体裁も委員会の公告であることがわかればよく、委員会あるいは会長の名でしてさしつかえない。公告の内容は、買収計画を定めたこと及び買収計画書の縦覧期間と場所を掲げれば足りる。買収計画の内容は、買収計画書を縦覧すれば明らかになるからである。前記乙第一号証の二六、二七、三三によれば本件各公告が適法になされたことが認められる。

成立に争いのない乙第一号証の二八は、前記乙第一号証の三三と日付を異にするけれども、前記乙第一号証の一〇と対照すれば乙第一号証の三三の日付が正しいことが認められるのであつて、本件公告が適法であるとの認定を左右するものではない。原告の三、(二)の主張も理由がない。

従つて右各買収計画は無効でない。

四、最後に、本訴のうち、被告委員会に対し前記六筆の土地を除く本件土地に関する各異議却下決定の無効確認を求める部分について判断する。前記乙第一号証の四、五及び成立に争いのない乙第一号証の八、九、一三、一四によれば、加美村農地委員会は、右各土地に対する買収計画について原告等の申し立てた異議に対し、委員会を開いて審議した上却下の決定をし、それを決定書に表示したものであることが認められる。決定書が会長の名で作成されていることは当事者間に争いがないが、決定書は委員会の意思を表明する文書にすぎず、その作成名義の点については特に法令の定めもないから委員会の専務の総括者としての会長がその名で作成してさしつかえない。

よつて右名異議却下決定に違法の点はない。

五、以上述べたとおり、原告等の本訴のうち、被告国に対する訴の全部及び被告委員会に対し、原告茂が第一物件表の土地について、原告ミ子が第二物件表の土地について、原告照夫が第三物件表の土地について、それぞれ各土地に対する政府の買収の取消を求める部分、政府の買収、買収計画の公告、訴願に対する裁決、買収計画の承認、買収令書の発行の各無効確認を求める部分、原告茂が第一物件表の(9)(16)(19)(20)の各土地について、原告ミ子が第二物件表の(1)(6)の各土地について、それぞれ買収計画の取消並びに買収計画及び異議却下決定の各無効確認を求める部分は、いずれも不適法であるから却下し、原告等の被告委員会に対するその余の請求はいずれも失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 平峯隆 松田延雄 高橋欣一)

(別紙省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例